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Vol.1 乳腺の内視鏡手術と乳房再建

乳腺の内視鏡手術と乳房再建
「根治性と整容性」を両立する治療で乳がん患者のQOL向上をめざす

教えてくれたのは・・・

九州中央病院 副院長・乳腺外科部長・リンパ浮腫センター長・健康管理センター長 医学博士 北村 薫 先生

九州中央病院

副院長・乳腺外科部長・リンパ浮腫センター長・健康管理センター長

医学博士  北村 薫 先生

九州中央病院について

■プロフィール

祖母を胃がんで亡くしたことをきっかけに医師を目指したという北村先生。人も動物も、とにかく「生き物が好き」ということから、一時は獣医になることも考えたそう。
「同じ女性として、患者さんの立場に立った最良の治療を提案できれば」という思いから乳腺外科を志した北村先生が、良性腫瘍の内視鏡手術を考案したのは1997年のこと。「乳房を傷つけたくない」という患者さんの声から生まれたこの手術は、ワキの下(乳房横)をわずか1.2cmほど切開して、がんを摘出するという画期的な方法で、2000年にはアメリカの国際内視鏡外科学会(SLS)で、2001年には国際内視鏡学会で、それぞれ最優秀賞を受賞しています。
また、脂肪細胞内の幹細胞を濃縮して乳房に移植する「再生医療」による乳房再建を世界で初めて実施したことでも大きな注目を集めています。

■略 歴

  • 1987年 佐賀医科大学医学部卒業後、九州大学第二外科(当時)入局
  • 1992年 米国(Philadelphia) Hahnemann医科大学に留学
  • 1994年 医学博士取得
  • 2000年 九州大学第二外科 講師
  • 2003年 九州中央病院乳腺外科部長
  • 2005年 リンパ浮腫センター長、医務局長、University of California, San Diego 客員教授
  • 2008年より現職
資格 役職
  • ・日本外科学会指導医
  • ・日本乳癌学会専門医
  • ・日本内視鏡外科学会技術認定
  • ・乳癌検診制度管理委員会読影認証
  • ほか
  • ・日本乳癌学会評議員
  • ・日本内視鏡外科学会評議員
  • ・日本リンパ学会理事
  • ・一般社団法人 リンパ浮腫指導技能者養成協会
      理事長
  • ・日本リンパ浮腫研究会 代表世話人

Q.内視鏡手術はどのような手術なのでしょうか?

内視鏡を挿入し、がんを摘出する当院で行っている乳がんの内視鏡手術は、傷が目立ちにくいワキの下を1.2cmほど切開して内視鏡を挿入し、がんを摘出する方法です。
「内視鏡手術」と一言でいっても、医療施設によっては、内視鏡を使用するにもかかわらず、乳輪周囲を切開するところもあります。


がん摘出と同時に再建も行い、乳房を失うことへの女性の精神的負担の軽減 乳がんは病変が広いと、早期でも乳腺全体を切除した方がよい場合もありますが、当科では可能な限り、がん摘出と同時に再建も行い、乳房を失うことへの女性の精神的負担の軽減に努めています。
切開範囲は、摘出する腫瘍が悪性か良性かによって変わってくるのですが、良性の場合、腫瘍を小さく分割して摘出できるので、5mm〜1.2cm程度の傷跡で済みます。悪性の場合は、病理検査をするため腫瘍をまるごと摘出しなければなりませんので、切開の大きさは3〜7cm程度と異なります。

乳房の部分切除の場合3泊、全摘の場合は1週間程度の入院 わきのリンパ節転移が陰性なら、乳房の部分切除の場合3泊、全摘の場合は1週間程度の入院が必要です。

Q.乳房の温存は可能ですか?

乳房は女性にとって大切なもので、手術を受ける場合でも「できる限りキレイに乳房を残したい、傷は残したくない」という患者さんが圧倒的に多く、当院に来院される患者さんのほとんどが乳房温存を希望されます。
乳房温存率の全国平均は60%程度ですが、当院では温存率80〜90%を達成しています。
しかし、乳房を温存すれば術後の仕上がりが美しいかというと、必ずしもそうとは限りませんので、その場合は、無理をして乳房を残すのではなく、全摘をして乳房再建を行います。
乳がんの手術は胃や腸などの他のがんと違い、「傷跡をいかに残さず、乳房を美しく残すか」という外観上の問題も考慮していかなければなりませんので、「治療したら終わり」ではなく、根治性と整容性の両立を常に目指しています。


Q.乳房再建にはどのような方法があるのでしょうか?

インプラント・組織拡張器乳房再建には、
(1)シリコンジェルの入ったインプラントを入れる方法
(2)身体の別の部位から筋肉をとって移植する方法
(3)脂肪を移植する方法
があります。
背筋や腹筋を移植する場合、背中やお腹に20cm以上の傷が残ります。当科では原則としてインプラントを入れる方法を行っています。


幹細胞を濃縮・抽出する機器(セリューション™システム)脂肪を移植する方法は、脂肪細胞と一緒に脂肪細胞内の幹細胞を濃縮して乳房へ移植する再生医療です。脂肪を大量に移植すると短期間で吸収されてしまうのですが、濃縮した幹細胞と一緒に少量の脂肪を移植することで、吸収されにくくなると考えていますので、この方法は、乳房の部分切除後の再建として行っています。


Q.再発防止の放射線療法「マンモサイト」とはどのようなものでしょうか?

マンモサイトマンモサイトは、乳がんの部分照射のために開発されたもので、乳房の中から乳腺だけに放射線を照射することができる機具です。
一般的な放射線療法は、乳房の表面から放射線を照射しますので、乳房全体に色素沈着が生じます。また、通院も5〜6週間が必要です。
マンモサイトは放射性物質の入った専用のバルーンを切除部位にできた空間に入れ、再発のリスクが高い部分にのみ局所照射することができます。治療期間も5日間に10回の照射を行ったら終了です。
しかし、マンモサイト適応のためには、皮膚に7mm以上の厚みが必要となります。日本人は乳腺が薄い方が多く、さらに手術後となると、7mmの厚みが残っているケースは稀です。今後、薄い皮膚にも対応できるバルーンが開発されると、もっと広まるのではないかと思います。


Q.手術後に起こる「リンパ浮腫」とはどのようなものですか?

リンパ浮腫リンパ浮腫は、がん摘出手術の際にリンパ節も切除した場合に、リンパの流れが滞って老廃物がたまり、腕や脚が腫れる術後の後遺症です。乳がん手術の場合は腕に、子宮や卵巣がん手術の場合は脚に腫れが現れます。
リンパ浮腫は、リンパを切除したら必ず起こる訳ではなく予測ができません。浮腫を起こさないための予防が何より大切です。


リンパ浮腫 治療前→治療後これまで、リンパ浮腫の積極的なケアは行われていませんでしたが、外観にも日常生活にも大きな支障があり、QOL(生活の質)を低下させていますので、当院では2003年より「リンパ浮腫センター」を設け、リンパ浮腫の予防と改善をサポートしています。
リンパ浮腫センターでは、「予防指導」とともに「圧迫療法」や「ドレナージ(手でリンパの流れを促進させる方法)」、「運動療法」などを行っています。
また、リンパ浮腫指導技能者養成講座も行い、治療者の育成にも努めています。


Q.圧迫療法ではどのようなものを使用するのですか?

従来品・九州中央病院開発「ヒールフィッター」もっとも有効な圧迫療法では「弾圧着衣」や「弾性包帯(バンデージ)」を使用します。適切な圧迫を行うことで、リンパの流れを促し、腫れを改善します。
この弾圧着衣は圧迫力が強く、補助器具が無いと着用が難しい場合もあるのですが、従来の補助器具はサイズが大きく、持ち運びに不便でした。「温泉旅行や出張に持っていけない」という患者さんの声を受けて、従来の半分以下のサイズに折りたたむことのできる「オリジナルの補助器具(ヒールフィッター)」を開発しました(特許出願中)。


Q.病院を選ぶ際の注意点を教えてください。

まず、ご自身でも病気・病院について予習することが大切ですね。病院を選ぶ際、症例数はもちろん重要ですが、症例数が多ければ必ずしも良いとは限りません。治療内容もひとことで「内視鏡手術」や「温存」といっても医療機関によって内容に大きな差がありますので、キーワードに惑わされず、手術内容をしっかりと確認することもお勧めします。

先生、本日はありがとうございました!

取材協力

九州中央病院  -  乳腺外科

「根治性と整容性の両立」をモットーに女性のQOL向上のため、様々な取り組みを行っている九州中央病院。
乳房温存率は、全国平均の60%を大きく上回る80〜90%に達し、乳房切除が必要な場合でも、同時再建を行うなど、患者さんの立場に立った治療を提案しています。
「がんを治療したら終わり」ではなく「小さな傷でキレイに残す」という同院の内視鏡手術を受けた多くの患者さんから喜びの声が寄せられ、様々なメディアでも取り上げられました。現在では、九州だけでなく全国各地から患者さんが来院されており、外来が終わってから2〜3例の手術が毎日行われています。

九州中央病院の特徴

  • 小さな傷から腫瘍を摘出する内視鏡乳腺手術を提供
  • 乳房再建(インプラント再建、乳輪・乳頭再建、温存術後の自家脂肪幹細胞を用いた再建)
  • 国内初となる放射線治療「マンモサイト」を導入し、5日間で終了する乳房部分照射療法を可能に
  • マンモグラフィ撮影認定・読影認定(マンモグラフィ検診精度管理中央委員会)
  • RI・色素法による術前センチネルリンパ節生検(先進医療認定)
  • 国内の総合病院では初の「リンパ浮腫センター」を設立し術後リンパ浮腫の予防と治療を提供
対象疾患 治療内容
  • ・悪性腫瘍(原発性乳癌、再発など)
  • ・良性腫瘍(線維腺腫、乳管内乳頭腫、
      葉状腫瘍、脂肪腫など)
  • ・乳房形成不全、漏斗胸、陥没乳頭
  • ・乳癌術後の再建
  • ・術後の四肢リンパ浮腫
  • ・乳癌検診
  • ・セカンドオピニオン
  • ・内視鏡下腫瘍摘出術
  • ・術前センチネルリンパ節生検
  • ・乳腺部分切除術
  • ・皮下乳腺全切除・再建術
  • ・乳房温存術後の再建
  • ・乳輪・乳頭再建
  • ・放射線通常照射、Mammosite(マンモサイト)を
      用いた乳腺部分照射

所在地

〒815-8588  福岡市南区塩原3-23-1

九州中央病院 地図

電話

TEL 092-541-4936(代)

診療時間

乳腺外来  月〜金曜日  午前中(再来は完全予約制)
リンパ浮腫センター 月〜金曜日  8:30〜16:30(完全予約制)

ホームページ

九州中央病院 http://kyushu-ctr-hsp.com/